頚椎椎間板ヘルニア
頚椎は7個の椎骨からなり前方部分と後方部分とで構成されています。前方部分は椎体と椎間板、ルシュカ関節、横突起よりなります。後方部分は椎弓根と椎弓、椎間関節、棘突起より構成されております。前方部分と後方部分とで囲まれたスペースを脊柱管(頚髄が通っている管)と言います。脊柱管の内には頚髄(首の脊髄)が存在し、頚髄からは左右8対の頚神経が枝を出しています。頚神経は椎間孔(頚神経が出で行く穴)から頚部~肩~上腕~前腕~手指へと下って行きます。
頚椎の椎間板は椎骨と椎骨の間にあってクッションの役割をしています。この椎間板は真中に位置した柔らかいゲル状・半液状の髄核と、その周辺を取り囲んでいる線維輪とで構成されています。椎間板ヘルニアとは髄核が後方へ移動し飛び出た状態を言います。ちょうど、両手で饅頭(まんじゅう)を潰すと、真中にある「あんこ」が周りに移動した状態を思い浮かべて下さい。その飛び出たヘルニア(あんこ)が神経を圧迫し、首~肩~腕の痛み、シビレなどをもたらした状態を頚椎椎間板ヘルニアと言います
好発部位(よく起こる場所)は頭蓋骨を支えるのに最も負担が強いられる下位の頚椎(首の根元)です。なぜかと申しますと、首の動きは顎を引く動作(前屈)と、頭を後ろに反る動作(後屈)と、頭を横に倒す動作(側屈)と、頭を捻る動作(回旋)とがありますが、下位頚椎で前・後屈動作(首を前に倒し、後ろに反る動作)の60%を、側屈動作(横に倒す動作)の90%を、回旋動作(首を回す動作)の50%を担っているからです。下位頚椎とは首の5番・6番・7番を言います。従って、第5頚椎-第6頚椎間の椎間板と第6頚椎-第7頚椎間の椎間板にヘルニアの発生をよく認めます。
頚椎椎間板ヘルニアは腰椎椎間板ヘルニアに比べて発症年齢が高く、40歳以上に好発します。原因として頚椎症性変化(首の老化)を基盤に明らかな原因がなく発症します。中には、軽微な外傷(むち打ち損傷など)やスポーツ傷害をきっかけに発症することもあります。
症状は首の痛み、運動障害、肩の凝りなどの軽度な症状に始まり、次第に特徴的な症状として首を後ろに反ると肩甲骨や腕に走る痛み、腕から指にかけてのシビレ感を訴えます。さらに、症状が進行しますと、字が書きづらい、物が摘みにくい、ボタンの付け外しが困難になる、腕や指に力が入らないなどと訴え、足が突っ張って歩きにくい(痙性歩行)、おしっこや便の出具合が悪い(直腸膀胱障害)などの症状も出現します。
診断は問診を重要し、腱反射異常、知覚障害、筋力低下などを検査し、どの神経が壊れているかを検討します。レントゲン所見では頚椎の不安定性(ずれ、グラグラする状態)や骨棘(骨のとげ)、椎間板狭小(軟骨が磨り減り、椎間板が潰れた状態)、脊柱管狭小(脊髄を取り囲んでいる骨の器が狭い状態)などを検討します。診断は診察所見とレントゲン所見にて容易に判断できますが、詳細な検討にはMRIが必要となります。尚、症例によっては脊椎・脊髄腫瘍との鑑別(見極め)が必要となる場合がありますので要注意です。
治療は、まず日常生活動作の注意点を指導します。症例によっては装具療法として頚椎カラー固定を処方します。痛みに対しては基本的な痛みの治療法に則り、非ステロイド系抗炎症剤、筋弛緩剤、ビタミンB製剤を投与します。リハビリテーションとしては温熱療法、頚椎牽引療法、頚部のストレッチング、筋力強化訓練を指導します。経過の長い症例や難治例では神経ブロック療法(トリガーポイントブロック、肩甲上神経ブロック、星状神経節ブロック、頚部硬膜外ブロック、神経根ブロックなど)を勧めます。
これらの保存的治療(手術しない方法)で軽快しない症例には手術的治療が検討されます。術式は、症例に応じて前方固定術(頚部の前面からアプローチしてヘルニアを取り除き、骨盤から骨をとり、ヘルニアを除去した所に骨を植えて固定する方法)と骨形成的椎弓切除術(首の後ろからアプローチして脊髄を囲んでいる椎弓を部分的に切除・拡大し、脊髄の圧迫を取り除く方法)などが検討されます。どんな手術もそうですが、手術というものは得る物と失う物があるので、よく主治医の先生とご相談されることが賢明かと思います。