腰椎椎間板ヘルニア
腰椎の椎間板は椎骨と椎骨の間にあってクッションのような役割をしています。この椎間板は真中に位置した柔らかいゲル状・半液状の髄核と、その周辺を取り囲んでいる線維輪とで構成されています。
椎間板ヘルニアとは髄核が後方へ移動し、脊柱管内に飛び出た状態を言います。その飛び出たヘルニアが神経を圧迫して、腰痛やお尻の痛み、足先に放散する痛み、シビレ、足に力が入らなくなった状態(いわゆる根性坐骨神経痛)を腰椎椎間板ヘルニアと言います。
原因は加齢的な変化(腰椎症性変性)に加え、軽微な外傷(捻挫や打撲など)や長時間一定の姿勢を強いる作業、スポーツ傷害などが誘因となって発生します。中には、重いものを持った際やくしゃみなどをきっかけに発症することもあります。好発部位(起こり易い部位)は第4腰椎―第5腰椎と第5腰椎―第1仙椎間の椎間板です。
症状は腰痛やお尻の痛み、足先に走る痛み、シビレ、間欠性跛行(数10m~数100m歩くと足に痛みやシビレが現れ、休憩を必要とする状態)などです。さらに、進行すると運動麻痺が現れて足に力が入らなくなったり、直腸膀胱障害(尿や便の排出に異常を来たす状態)が出現します。診察ではSLR テスト陽性(仰向けの状態で膝を伸ばして足を持ち上げると、痛みのために足の挙上が困難となる状態)や腱反射異常、知覚障害、筋力低下などを認めます。レントゲン検査では椎間板の狭小化(椎間板がつぶれて、狭くなった状態)を認めます。診断は診察所見とレントゲン所見で容易ですが、確定診断としてMRIや脊髄造影、椎間板造影、神経根造影などが必要となります。時に、梨状筋症候群や腫瘍との鑑別(見極め)が必要な場合もあります。
治療は安静を指示し、日常生活動作の注意点を指導します。活動時には装具療法としてコルセットを着用させます。痛みやシビレに対しては痛みの基本的治療法に則り、非ステロイド系抗炎症剤やビタミンB製剤、筋弛緩剤などを処方し、リハビリテーションとして腰椎牽引療法や温熱療法、電気刺激療法を指示し、腰部のストレッチングや筋力強化訓練を指導します。難治例では神経ブロック療法(トイガーポイントブロック・腰部硬膜外ブロック・神経根ブロックなど)を検討します。
しかし、これらの保存的治療(手術しない方法)で改善の得られない症例は手術的治療を考慮します。手術適応は、耐え難い痛みを認める症例や直腸膀胱障害を認める症例、運動麻痺を認める症例などが対象となります。術式(手術の方法)はヘルニアを摘出する方法(LOVE法・骨形成的椎弓切除術・経皮的髄核摘出術)とヘルニアを摘出したのちに椎体を固定する方法(前方固定術)とがあり、年齢や職業、趣味、ヘルニアのタイプ、椎体の不安定性などを考慮して決定されます。
近年、MRIの普及などによりヘルニアの病態が解明されつつあり、一部のヘルニアでは自然に消退縮小することも解ってきました(組織球による異物貪食、分解作用によってヘルニアが小さくなる)。従って、急を要する症例(運動麻痺や直腸膀胱障害を認める症例)以外は、最低3~6ヶ月間の保存的治療を行うように指導しております。一般的に、腰椎椎間板ヘルニアの95%以上が保存的治療により軽快すると考えられています。
又、最近話題になっているレ-ザ-治療(鏡視下経皮的レ-ザ-椎間板除圧術)は線維輪が壊れていない症例で、椎間板内圧が高いタイプのヘルニアが適応となります。すでに線維輪を破って、脊柱管内に飛び出たヘルニアには効果を認めませんので、適応を選ぶことが肝要です。現在、レーザー治療は保険治療の対象外です。各施設により金額が異なり、20~30万円程度の自費扱いになっております。レーザ治療に関してはまだまだ色々な問題を残しております。